コロンビア革命軍(FARC)との和平プロセスについての考察

2月26日に開催されました講演会の概要を紹介致します。

-土地所有制度の問題、“違法”作物の問題、非合法武装組織構成員の社会復帰を中心に-

上智大学イベロアメリカ研究所準所員 千代勇一

  本講演では、サントス政権下で現在進められているコロンビア最大の非合法武装組織であるコロンビア革命軍(以下、FARC)との和平プロセスについて、土地問題、麻薬及び違法作物栽培問題、そして戦闘員の処遇の観点から分析を行い、今後の課題を明らかにした。
2012年2月、キューバにおいて政府とFARCの予備的対話が開始され、同年8月には「紛争終結及び安定的かつ持続的な平和の構築のための一般合意(以下、一般合意)」が締結された。これにより、翌9月にコロンビア政府はそれまで内密に行ってきたFARCとの和平交渉の存在を発表し、10月からは国際社会の協力も得て正式に交渉が開始した。一般合意では、和平交渉において①総合農村開発政策、 ②政治参加 、③紛争の終結、 ④違法薬物問題の解決、⑤紛争被害者、 ⑥実施・検証・承認について議論されることになったが、2014年2月の時点では総合的農村開発政策と政治参加について合意に至ったに過ぎず、現在も交渉は続けられている。
FARCは1960年代に保守党の弾圧を受けた一部の自由党員に、政治から排除されてきた共産党員、そして農民などが合流して結成された。FARCが活動拠点としていた農村では、農民の多くが零細あるいは小規模の土地所有農民さらには土地なし農民が圧倒的であったのに対して、広大な土地は少数のエリートに集中していた。FARCは結成当初には小規模な左翼ゲリラ組織であったが、1990年代半ば以降、麻薬ビジネスという潤沢な資金源を得て、構成員1万人以上を抱えるコロンビア最大の左翼ゲリラとなった。こうした状況から、FARCとの和平プロセスには土地所有問題、麻薬問題、さらには数多いメンバーの処遇などの問題が深く絡んでおり、以下、この三つの観点から考察を行う。
第一のテーマは土地問題である。まず、土地所有構造の特徴として大土地所有の傾向を指摘することができる。たとえば2002年の時点でコロンビアの農地の46.7%が全土地所有者の0.4%によって所有される一方で、土地所有者の67.6%が農地のわずか4.2%を分かち合っているのである。また、この集中化には地域差があり、アマゾン地域、オリノコ地域、大西洋沿岸地域ではとくにその傾向が強い。こうした状況はスペイン植民地期に由来するのであるが、1936年に制定された法律第200号(「土地法」)以降は土地所有の不均衡の緩和が試みられてきた。1961年の法律第135号(「農地改革法」)及び1994年の法律第160号(「新農地改革法」)によって農地改革が二度実施されたが、1960年から2002年までの土地所有構造に大きな変化は見られない。大土地所有者でもある少数エリートが政治を独占している状況では、大農場の接収と土地の再分配は実現は難しい。そこで、土地の接収による農地の確保ではなく、森林地帯を含む未開墾地の開拓による農地の拡大が試みられた。しかしながら成果は乏しく、さらに広大な森林保護区の設置(1959年)とその境界の曖昧さに加えて、紛争などによる土地所有権の混乱などもあり、農地のフロンティアに土地を得ることができた零細及び小規模な農民でさえ所有権の曖昧さなどの問題が生じた。
第二のテーマは麻薬及び違法作物栽培の問題である。コロンビアでは1990年代半ば以降、急速にコカ栽培が拡大し、世界最大のコカ栽培及びコカイン生産国となった。その中心的な役割を果たした組織の一つがFARCであった。もともとは麻薬組織がコカインの生産と密輸を主導しており、FARCはその一連のプロセスの警護を行っていたが、90年代半ばに巨大麻薬組織が崩壊するとFARCが麻薬ビジネスに本格的に“参入”した。これによりFARCは装備を近代化し、また構成員を増加して国内最大の非合法武装組織となった。

 麻薬がもたらしたのは組織の強大化だけではない。手段としての麻薬ビジネスが紛争の長期化の中で目的化したとの見方もある。さらに、世界最大のコカイン消費国である米国はコロンビアに対して麻薬犯罪人の引き渡しを求めており、FARCは麻薬組織として認定されるだけでなく、米国で法の裁きを受けることになるのである。したがって、来たるべき麻薬問題への対処がFARCにとって最大の資金源を失うことと、米国に引き渡されるリスクを負うことを意味しているところに交渉と実現の難しさがある。
第三のテーマはFARC構成員の処遇についてである。和平プロセスの最終段階には、数多くのメンバーの法的な扱いと社会復帰が重要な課題となる。とくに誘拐や殺人など重罪を犯した構成員に対する処罰の扱いには困難が予想される。1980年代及び90年代に行われた数々の和平プロセスでは、基本的に恩赦が適用されてきた。しかし、近年では国内外の世論がこれを問題視するようになり、2002年末に始まるウリベ政権期のパラミリタリーとの和平プロセスでは、人道犯罪に対する不処罰への懸念の声が強まった。最終的に、それまでの和平プロセスで適用されてきた法的枠組みを大きく変え、新たに「公正・和平」法が2005年に制定された。刑期は5年から8年と通常の刑法に比べると大きく減じられているが、政府は紛争当事者の処罰と被害者補償を定める画期的な法律と評した。また、この和平プロセスでは約4万3000人が集団武装放棄を行って政府の社会復帰プログラムに参加し、さらに被害者補償、収奪された土地の返還、真相究明などが現在まで継続している。FARCとの和平プロセスの最終段階においても、処罰や社会復帰のあり方、真相究明や被害者への補償の実現など、現在の状況に即して解決すべき数多くの困難な問題がある。
最後に、これら三つの視点から見えたFARCとの和平プロセスの課題を改めて整理する。まず土地所有問題については、紛争の背景の一つであった農村の土地問題の解決に対し、プロセスがどのような貢献ができるかということが問われている。次にコカインおよびコカの問題からは、コカが栽培されている農村の再生とFARCの麻薬犯罪の扱いが課題となるだろう。そして構成員の処遇については、不処罰の問題を始め、数多くの構成員の社会復帰、40年以上続く紛争における真相究明と被害者補償をどのように実現していくのかが課題となる。このように解決が困難な問題は多いが、そもそも真の和平を達成するのは容易ではなく、問題に対処する一歩一歩、そして一日一日を積み重ねていくしかないだろう。